■多くの国民から歓迎された日本国憲法
 全員 あけましておめでとうございます。
 三戸 本日は、最近情報公開された最新の資料をもとにして「検証・憲法第九条の誕生」を著した岩田行雄さんと、東京地評議長の中山伸さんにおいでいただき、憲法九条を守っていく運動をどう進めていくのか、ということをテーマにお話いただきたいと思います。進行は編集部の三戸啓子がつとめさせていただきます。早速ですが、岩田さん、憲法がつくられた頃の国会の雰囲気はどうだったんでしょうか。

 岩田 いろいろと調べて見ますと、当時の国会というのは、平和な日本のありようについて、とても真剣な論議をやっていた。もう軍部にも誰にも遠慮せず自由に物を言っていて、民主主義の息吹きを感じます。勿論それぞれの政党の置かれた時代的制約や、個人の思想の制約があって、天皇制を残そうとした意見も多くありましたが。それに憲法改正の是非について政府が行った世論調査では、75%が改正した方がいいと。それから毎日新聞の世論調査でも、戦争放棄について70%が賛成していた。ですから、国民のかなりの部分の人たちにとっては、押しつけではなかった。むしろかなり率直に受け止めていたんではないかというのが私の印象ですね。それと、文部省が出した中学生向けの「新しい憲法のはなし」はご存知かと思いますが、帝国議会に設置した憲法普及会が出した「新しい憲法明るい生活」っていう本、これは二〇〇〇万部作られて、無料で全国の家庭に配られたっていうんですよ。それに中学、高校生向けの「民主主義」という教科書では、労働組合の役割を論じているんです。文部省が出しているんですよ。これ。
 三戸 それがそのまま残っていたら良かったのに。ところで、今はどちらかというと押し付け憲法という雰囲気があるようですが。
 岩田 その点で私が感じるのはですね、最近自主憲法制定をがなり立てる右翼の街頭宣伝車が通らないんですよ。要するに彼らの出番がないくらいに右翼的な雰囲気が社会にある。新憲法制定論議の頃は、連日のように、憲法に関する報道があった。ところが、去年の五月三日の新聞各社の社説をみると、かなりの部分がもう、改憲賛成の論調になっている。
 中山 改憲反対の運動なんかは報道しませんね。
 岩田 ええ。それから去年五月の「エコノミスト」の臨時増刊号では、自主憲法制定という復古調は影をひそめていて、若手の民主党議員まで含めて、今主流になっているのは「国際貢献」だ、と分析しているんです。


岩田行雄さん、「検証・憲法第9条」編著「軍備を持たない9条は、世界に衝撃を与えた」

 三戸 憲法がスタートした頃、中山さんはいかがだったでしょうか。
 中山 私は新憲法の下の一九四九年、佐賀県の炭鉱の町で生まれました。労働運動も盛んでしたが、憲法と直接知り合ったのは、中学に入りまして、社会科の授業でしたけど、一年中憲法学習だったんじゃないかなっていう感じもしますね。夏休みには憲法の全文書き取り一〇回というのが宿題だったんです。
 三戸 全文って、「前文」じゃなくって…
 中山 前文から一番最後の補則まで、全ての「オール」ね、これ一〇回。(笑)
 岩田 そうですか
 中山 当然のことながら、日の丸・君が代もありませんでしたし、小学校の卒業式の歌は「かあさんの歌」で、国民歌で「緑の山河」っていう歌があった。ですから小学校も中学校も私は国民歌で卒業したんですよ。


■戦争放棄と戦力の不保持は世界に衝撃
 三戸 ところで、憲法の中でも九条は特に大切なものだと思うんですけど。
 岩田 戦争放棄、軍備を持たないっていうことを宣言したというのは世界にですね、かなり大きな衝撃を与えたと思うんですよ。その背景には、約310万人の日本人が亡くなっているでしょ。それからアジア全体で2千万人からの人たちが亡くなっている。更に日本の場合には広島・長崎に原爆が落とされて多数の犠牲を伴っているわけですよね。駒沢大学の西修教授がまとめたところによると、一四九カ国の憲法が平和条項を持っているんですね。その中で日本の第九条に近いものを持っているのは、コスタリカをはじめとして、イタリア、フランス、ドイツ、韓国、フィリピンと、いくつもの国の名前があがってくるんですね。最近日本で「九条の会」っていうのが次つぎにできていますよね。実はアメリカではオーバビーさんという方が一九九一年に「九条の会」を作っている。
 中山 先駆的ですね。
 岩田 九条は多くの国の憲法や、ハーグ国際平和会議、国連でのミレニアム・フォーラムなど平和運動にも大きな影響を与えてきた。
 中山 そうですね。

中山伸さん、東京地評議長・都教組委員長「春闘50周年、東京地評の役割は大きい」
 三戸 今年の通常国会で改悪がたくらまれている教育基本法なんですが、中山さん、いかがでしょうか。
 中山 憲法と教育基本法は当たり前で水と空気のようなものだと言われています。一方で、水と空気のようになくてはならないものであるんですよね。しかも教育基本法は、その前文に「憲法の理想の実現は根本において教育の力による」と明記しているという意味では、一体のものだと思うんですよね。自民党の憲法改正草案大綱のたたき台を読むと、戦争のできる国づくりを進めるために憲法九条を変えていくこととあわせて、憲法全体の枠組みを変えていく大きな狙いが浮かびあがってきます。
 「構造改革」を進めれば、当然のことながら、大量のリストラ・倒産による失業者が生まれるし、社会不安が増大し子どもたちも荒れる。そこで、不満を押し込め、締めつける規範が必要になってくる。「愛国心」を植え付け、徹底的に規律を守らせる。そして、それを学校と同時に家庭、家族に押し付ける。だから、女性はもっと家庭にいなさいと。そうすると保育園なんかはいらない。ですから、あくなき利潤追求をめざし、今の「構造改革」を進めていくためには、今の憲法を変えていかなければならないという、彼らの本当に突き動かされるような動機が出てきていると思うんですよね。平和と平等ではなく戦争と差別・選別の社会です。
 今、東京の石原都政はほんとにひどくて、「日の丸・君が代」を処分をもって強制しています。その石原知事が絶対にやらないと言っている「三〇人学級」。このすべての子どもに行きとどいた教育を願う要求とその実現をめざす運動は、財界が必要とするエリートづくりのための選別・差別の「教育改革」と真正面から対決するたたかいだと、私自身はこの間言い続けているんです。
 岩田 ええ、そうですね。それと憲法は60年たって古くなったと言うんですが、そうではなく、60年も先行して世界史的な意義のある宣言をやったということをもっと前面に出していく必要がある。これはたとえばアメリカの独立宣言だとか、フランス革命の時に出された人権宣言だとかが、二百何十年たちましたから古くなったからもう、全く顧みることができないような内容かって言うとそうではないんですよ。


■教育基本法と憲法の改悪を許さない先頭に
 三戸 それでは、憲法をどう守るかについて考えていらっしゃることをお話しいただけないでしょうか。
 岩田 私は本来、16世紀から18世紀の書籍文化史の研究者ですから、ここまでやることは、一年前は考えてませんでしたよ。(中山
「なるほど」。三戸 笑い)それが去年の半年だけで一四回も憲法の講演をやっているんですよ。ところが講演を受けているうちに、私ここまでだから、もう勘弁してくださいとは、責任上できなくなってきた。だから、その後も時間を見つけては国会図書館に通って、さらにいろいろ調査し、「憲法評論家」というところまでは進んできたかなと。そこで三戸さんのご質問ですが、一つは東京地評をはじめ既存の組織が一生懸命いろんな運動を展開していく。これが大事なんですね。それと同時に、そういったところに組織されていない人たちがいくらでもいるわけでしょ。その人たちとどういう接点を持つかっていうことですね。ただ、私の「本」の普及では口コミがすごい力を発揮しました。それに、もう一つ考えているのはね、マジック。小泉マジックに対してはね、趣味のマジックで対抗しちゃおうと。憲法を今改悪しようとしている連中がやっている手口、これを手品でやるとこんなもんですって風なのをね。
 中山 じゃ、小泉マジックも、ネタを明らかにしないとね。(三人笑い)
 岩田 そこではある程度タネ明かしもやるんですよ。マジックの世界はほんとうはあまりタネ明かしをしちゃいけないんですけど。
 中山 それはいいアイデアですね。

三戸啓子さん、東京地評女性センター事務局長「憲法の中でも9条は特に大切ですよね」
 岩田 片方ではまじめにこの「本」と講演で論理的に迫っていく。で、もう一方では明るく楽しくやりたいと。
 三戸 労働組合の役割も重要ですね。
 中山 20世紀っていうのは平和と人権を求めて、めざして出発した世紀だと思います。今年は春闘も50周年という節目の春闘なんですね。すでにお話にあったとおりに教育基本法と憲法の改悪を許さない、守って生かす歴史的たたかいの年の幕開けを迎え、東京地評の果たす役割は大変大きく、新たな決意をしているところです。昨秋から、都内各地で、連日のように集会や宣伝行動が行われています。ベランダにピースのバスタオルを毎日干している、小さなミニポスターを窓に貼る、小さなピースフラワーポットをみんなに配っていく、それから東京地評の女性も缶バッチで訴えている。国民の中に根づく憲法の力が急速に、多様に発揮され始めています。憲法改悪を阻止するためには、国民の過半数がしっかり改悪反対の意思を明確に示せればいいわけですよ。
 今、世論調査では、九条改悪反対っていうのは国民の過半数です。しかし一方では憲法を変えてもいいという人も多数なんですね。そのギャップを埋めることが私たちの大事な仕事だと思います。それに改悪を阻止することができれば、新しい時代をつくっていくことができる。その展望が大きく広がります。東京地評は憲法闘争本部を設置して取り組みを進めています。労働組合は、これまで「教え子を再び戦場に送らない」「白衣を戦場の血で汚さない」「赤紙を配らない」「弾薬を輸送しない」「戦争のためのペンをとらない」と国民運動の中心になって、たたかってきた歴史と誇りがあります。今、秩父事件「草の乱」という映画の上映運動をやっていますが、大変好評です。今から120年前の時代に不況と重税に悩む農民、困民党が蜂起した時代と今とを私たち労働者はぴったり重ねて見ているんですね。
 岩田 私ひとつ付け加えたいのは、私の「本」をもって各国の大使館やジャーナリスト、地方自治体の長にも訴え始めていますが、こちらの取り組みはすべてのマスコミにこちらから持ち込むことも重要だと思います。
 三戸 情報をこちらから発信するということですね
 岩田 そう。私はこの本を最初は千冊だけの予定でしたが、思い切って6月に5千冊、11月にも3千冊出版して、すでに6千5百冊の注文を受けています。良い情報の発信を続ければ必ず量から質への変化を生み出せる。ですから大きな組織をお持ちの皆さんにはその組織がやればやるだけ状況を変えられるということを最後に訴えておきたいと思います。
 三戸 大切な一年になりそうですね。本日はありがとうございました。
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岩田行雄さん:1942年 東京・葛飾生まれ。早稲田大学第二文学部でロシア文学を学ぶ。30年間ナウカ鰍ノ勤務。退職後は16〜18世紀ロシアの書籍文化史をはじめ幅広い研究活動を行っている。2002年4月〜2004年3月早稲田大学現代政治経済研究所特別研究員。著作多数。