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調査・研究
2022年労働相談の特徴 ~増加するハラスメント相談~
2023.03.09

東京地評労働相談情報センター室長・柴田和啓

はじめに 1311件の労働相談から
  • 東京地評・労働相談センターが昨年1年間に受けた労働相談の件数は、前年比約92%の1311件であった。このうちのほとんどが、東京地評や全労連のHPを見ての相談であった。相談方法を見ると、電話相談が891件、メール相談が524件、来所が4件であった。
  • 雇用形態別に分けると正規雇用労働者729件、非正規雇用394件、派遣労働75件、請負・委託24件、その他・不明89件、男女別に分けると男性596件、女性708件であった。業種は医療200件、その他サービス192件を筆頭に製造125件、卸小売102件、情報通信99件と続く。
  • 労働組合の有無で見ると、労働組合がある会社が215件に対してない会社が860件と、多くは組合を持たない会社の方からの相談だった。
  • 相談内容は労働契約246件、労働条件172件、労働時間・休暇156件、賃金・退職金153件に対しハラスメントが398件と、その多くを占めていた(図1)。
(図1) 2022年 ハラスメント相談件数
2022年労働相談の特徴

ハラスメントの相談を分析すると、以下の特徴がみられた。

➤ハラスメント相談の割合は、2021年が23.3%(1420件中331件)であったのに対し、2022年は30.4%(1311件中398件)と7.1ポイント増加した。

➤割合を男女別に見ると、女性が54%(708件)、男性が46%(596件)で、女性のほうがやや多くなった(図2)。なお、比率は前年と変わりない。また年代別に見ると、30代が最も多く38.9%(211件中82件)となった(図3)。

➤雇用別に見ると、正規雇用者の相談件数が35.3%(729件中267件)と、非正規雇用者の23.1%(394件中91件)、派遣労働者の29.3%(75件中22件)と比べても目立った(図4)。

(図4)雇用形態別に見るハラスメント相談件数・割合
メール相談の事例

 これら多くの相談者からは、「ひどい言葉で叱責されると思うと不安で眠れない」、「出勤しようと思うと体が動かなくなる」、「弱い立場の者は泣き寝入りしかないのか」「もう耐えられない」「今は辞められない、助けてほしい」「アドバイスを…」など、深刻な状況が寄せられてくる。

 以下に、メールで寄せられた相談のうち、とくにひどいケースを取り上げる。

〔ケース1〕転職2週間目に専務より3時間にわたるハラスメント 過呼吸にて救急搬送
 三時間にわたり、仕事ミスの叱責から始まり職場の社員がいる中、家族、学歴、職業差別、 人格否定を続けた… 昼休みに入った喫茶店で過呼吸により倒れ、お店から救急車にて病院 に搬送された。組合と相談するが社労士を間に退職条件で合意し解決。 

T・Eさん 女性・20代 正規雇用 製造・営業事務 事業所規模20人 労組・無 
 新入社員が入社初日に目の当たりにした副社長によるハラスメント。20人足らずの会社に就社したT・Eさんは,副社長が、従業員の面前で長時間にわたり社員を大声で罵倒する場面に出くわし、いつか自分も同じ事が起きるかもと思い、メモを残したそうです。そして録音の用意もして勤務していた。
 2週間後、予想していた最悪の事態が訪れ、2時間あまり一つのミスを取り上げ、無能呼ばわりから始まり家族に対するいわれ無き侮辱などが行われた。昼食時間に外食先の店で過呼吸となり倒れ、救急車で搬送される事態となった。聞けば、多くの社員が同様のハラスメントで退職しているとのことだった。 

〔ケース2〕中途入社された中間管理職に対する上司のハラスメント行為を訴えたが 
会社による調査結果はパワハラ該当無し判断がくだされ、同部門復帰の際、各上司へ謝罪及び反省と覚悟が必要で有り、自覚出来ているか?職場復帰にあたり厳しい風当たりが・・・ 

N・Jさん 男性・50代 正規雇用 勤続1.5年 不動産 事業所規模300人~ 労組・無
昨年3月に中途入社。業務上の提案に対し、部長より「係長ごときが?」と同僚社員の面前で嫌がらせが始まり、一方的に罵倒され、体調が悪くとも長時間立たせたまま等の優位的立場を利用したパワハラ行為が3週間程続き、人事部へパワハラ実態を伝えて休職をした。
職場復帰可能の診断が下されたことから、会社に復帰の意向を伝えたところ、人事部からは、訴えのあった部長によるハラスメント行為は無かった。復職するにあたり部長に謝罪する覚悟はあるのかと言われた。50歳代で、大学生の子供のいる3人家族。辞めるわけにいかず本当に困っている。どの様な対処が良いか?アドバイスをお願い致します。

結論:ハラスメントを禁止する法整備が求められる

 ここ数年の特徴としてハラスメント相談が急増した原因に、ハラスメント防止が法制化(労働施策総合推進法)され、2022年4月より中小企業含む、すべての企業に防止策が義務付けられ、ハラスメント行為に対する労働者の意識が変わったことにあると言える。ハラスメントは人権を侵害する行為であり、被害者に多大なる精神的苦痛や経済的な損害を与えている。多くの相談者が、うつ病などの精神疾患を発症し、長期休職や職を失うなど労働者としての人生を大きく狂わす相談事例が寄せられている。

 また、マスコミ報道にあるように、自殺に追いやられるケースも無くならない。ハラスメント防止の法的措置は、すべての企業に義務付けられたが、2019年のILO条約「仕事の世界におけるハラスメントの撤廃に関する条約」ならびにEU諸国とは異なり禁止規定のない努力義務にとどめられた。労働組合が有る職場では、就業規則上での禁止規定の明確化や罰則規定などを整えることが求められている。しかし組合の無い職場や経営者からのハラスメントへの対応が残されているなど、法的不備に対し、あらためてILO条約が求めるハラスメントを禁止する法整備が求められる。

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