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法規制の根幹を揺るがしかねない労基研議論 弁護士講師に学習会
2024.05.02

 全国労働委員会対策会議は4月26日(金)、ラパスホールで、厚労省の有識者による「新しい時代の働き方に関する研究会」報告書と「労働基準関係法制研究会(労基研)」で議論されている内容と狙いは何かについての学習会を、日本労働弁護団幹事長の佐々木亮弁護士を迎えて行いました。

報告書の問題点と実態かけ離れた労働者像

 学習会では23年3月に厚生労働省が設置した「新しい時代の働き方に関する研究会」の報告書について2つの問題点が指摘されました。
 1つは、労働基準法制という労働条件の最低基準を画する性格の法体系に、労使の同意・労使コミュニケーションという言葉をつかい、最低基準にかかる強行法規性を破壊する狙いが見えています。
 2つは、労働者の健康確保は労働者自身が行うものだとする記載が随所にあり、労働者の能力開発やキャリア形成を促す性格を労基法に足すことで、労基法の労働者保護の性格を変容させ、労働時間規制の緩和を試みようとしています。

 報告書では、労働者は自発的に自分を磨き、会社のために働き会社に貢献するような、やたらやる気に満ち溢れた労働者を想定しています。しかし、多くの労働者は、生活費を得るために労働契約を締結し、自身の労働力・労働時間を使用者に提供して、対価として生活のための賃金を得ています。研究会に示されたアンケート資料では、研究会が想定している労働者像とはまったく違う結果となっていることが示されました。「仕事に注力したいとは思っているわけではない」「いま以上に働きたいとは思っていない」「仕事より自らの生活の充実を求めている」「雇用の安定が最優先」というものです。報告書は、リアルな労働者像を見ておらず、「キラキラ労働者(やる気に満ちた労働者)」になれと言わんばかりです。

議論にまとまりなくしかし危険性はらむ

 現在の労働時間法制について「報告書」では、労働時間と成果がリンクしない働き方をしている労働者について、労働者の多様で主体的なキャリア形成のニーズや、新たな働き方に対応できるよう、労働者と使用者とのコミュニケーションを図り、同意を得たうえで労働時間制度を使いやすい柔軟な制度にしていく方向を進めようとしています。そのために労使コミュニケーションを使い、労働時間法制の規制緩和・デロゲーションを拡大しようとしています。
 第1回(1月23日)「労基法の労働者、労働時間制度、労使コミュニケーション」、第2回「労働時間制度」(2月21日)、第3回「労基法における事業場の単位」「労働基準法の使用者の範囲」「労基法上の労働者の判断基準(1985年労基研基準の見直し)」(2月28日)、第4回「労使コミュニケーション」(3月18日)、第5回(3月26日)と第6回(4月23日)では、それまでの議論が整理されました。第7回(5月)からは労働団体などにヒアリングが開始されました。研究会終局までのスケジュールは示されていませんが、24年夏に「中間まとめ」が出され、24年末には「議論をまとめ」、25年初旬から労働政策審議会での議論が始まるものとみられ26年ないし27年国会に法案化され見通しで、作業が急ピッチですすめられています。
 「労使コミュニケーション」という言葉をつかい、実際に何が狙われているのか、具体的には明らかになっていません。「労働時間制度に関する何らかの新たな規制緩和をしよう」「労使コミュニケーションということで労働者代表制度を導入しよう」「労使コミュニケーションと規制緩和・デロケーションをつなげて考えよう」「労働者性、長時間労働対策などについても、何らかの制度の変更・導入が予想される」などさまざまな議論がありますが、研究会の委員が各々意見を述べているだけで、まとまりがない状況です。しかし、議論されている内容は労働基準法の規制の根幹を揺るがしかねない内容であり、注視が必要です。

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