東京地評労働相談情報センター室長・柴田和啓
2021年4月から12月までの9ヶ月間に東京地評が受けた労働相談は1,131件となっています。昨年同期1,074件を若干上回っている。
相談の特徴は、2020年度ではコロナ感染拡大に対し政府が発した緊急事態宣言により、多くのシフト制で働く非正規労働者の方々からの相談、コロナ禍による雇止めや賃金補償に関する相談が多くよせられた。
- 以下、2021年4月から同年12月までのハラスメント相談をまとめてみた。
ハラスメント相談昨年同期比の2.56倍に急増
相談件数中のハラスメント相談
- 2020年度 1074件 中 128件(11.9%)
- 2021年度 1131件 中 331件(29.3%)
- 前年同期比 331/128 (258.5%)2.6倍の相談数
1.年齢別にみた特徴 20代ではハラスメント相談が4割超
- 20代の相談件数179件中77件43.0%
- 30代の相談件数226件中78件34.5%
- 40代の相談件数262件中78件29.8%
- 50代の相談件数246件中65件26.4%
- そのほかの相談件数219件中34件15.5%
2.月ごとの相談件数 ハラスメント相談が5割を超える月も
21年4月のハラスメント相談件数が4割、同年10月は5割となった。前年度のハラスメント相談は6%~18%であったが、2021年3月から急増した。
4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 | |
相談件数 | 115 | 146 | 153 | 131 | 89 | 117 | 110 | 115 | 101 |
ハラスメント | 47 | 50 | 47 | 43 | 39 | 40 | 55 | 37 | 30 |
率 | 40.9 | 34.3 | 30.7 | 32.8 | 43.8 | 34.2 | 50 | 32.2 | 29.7 |
3.雇用別の特徴 正規雇用者からの相談が目立つ。
- 正規雇用者の相談件数618件中、ハラスメント相談が221件35.8%
- 非正規雇用者の相談件数354件中、ハラスメント相談が79件22.3%
- 派遣労働者の相談件数167件中、ハラスメント相談が20件12.0%
- そのほかの相談件数208件中、ハラスメント相談が12件8.3%
4.業種別の特徴 製造、医療・福祉分野で多いハラスメント相談
医療・福祉は186件中、ハラスメント相談が62件で33.3%。昨年の12.3%に比べ、3倍近くなっている。
製造は69件中、ハラスメント相談が26件で37.7%となった。
医療福祉 | サービス | 卸小売 | 情報通信 | 製造 | ほか | |
相談件数 | 186 | 190 | 97 | 115 | 69 | 475 |
ハラスメント | 62 | 42 | 35 | 31 | 26 | 136 |
% | 33.3 | 22.1 | 36.1 | 26.9 | 37.7 | 28.6 |
相談事例を紹介します
〔ケース1〕転職2週間目に専務より3時間にわたるハラスメント 過呼吸にて救急搬送
三時間にわたり、仕事ミスの叱責から始まり職場の社員がいる中、家族、学歴、職業差別、人格否定を続けた・・・昼休みに入った喫茶店で過呼吸により倒れ、お店から救急車にて病院に搬送された。組合と相談するが社労士を間に退職条件で合意し解決。
T・Eさん 女性・20代 正規雇用 製造・営業事務 事業所規模20人 労組・無
新入社員が入社初日に目の当たりにした副社長によるハラスメント。20人足らずの会社に就社したAさんは,副社長が、従業員の面前で長時間にわたり社員を大声で罵倒する場面に出くわし、いつか自分も同じ事が起きるかもと思い、メモを残したそうです。そして録音の用意もして勤務していた。
2週間後、予想していた最悪の事態が訪れ、2時間あまり一つのミスを取り上げ、無能呼ばわりから始まり家族に対するいわれ無き侮辱などが行われた。昼食時間に外食先の店で過呼吸となり倒れ、救急車で搬送される事態となった。聞けば、多くの社員が同様のハラスメントで退職しているとのことだった。
〔ケース2〕中途入社された中間管理職に対する上司のハラスメント行為を訴えたが
会社による調査結果はパワハラ該当無し判断がくだされ、同部門復帰の際、各上司へ謝罪及び反省と覚悟が必要で有り、自覚出来ているか?職場復帰にあたり厳しい風当たりが・・・
N・J 男性・50代 正規雇用 勤続1.5年 不動産 事業所規模300人~ 労組・無
昨年3月に中途入社。業務上の提案に対し、部長より「係長ごときが?」と同僚社員の面前で嫌がらせが始まり、一方的に罵倒され、体調が悪くとも長時間立たせたまま等の優位的立場を利用したパワハラ行為が3週間程続き、人事部へパワハラ実態を伝えて休職をした。
職場復帰可能の診断が下されたことから、会社に復帰の意向を伝えたところ、人事部からは、訴えのあった部長によるハラスメント行為は無かった。復職するにあたり部長に謝罪する覚悟はあるのかと言われた。50歳代で、大学生の子供のいる3人家族。辞めるわけにいかず本当に困っている。どの様な対処が良いか?アドバイスをお願い致します
3つのハラスメント裁判 かつての上司が書類送検される例も
精神障害による労災認定を争った裁判事案では、三菱電機20代の新入社員の事件、NECの28才の社員、トヨタ自動車の40才の社員のいずれのケースも上司からのハラスメントと業務負荷を原因とする自殺と認定されています。
トヨタの事件で高裁は、上司の叱責に対し「社会通念に照らし、許容される範囲を超える精神的攻撃」と判断。
三菱電機の事件では、自殺教唆容疑で教育担当の上司が書類送検をされています。
2020年に改正された厚労省の「業務による心理的負荷評価表」に「パワハラ」の項が新設され「必要以上の長時間の叱責や大声かつ威圧的な叱責。精神的攻撃」などが加えられたことが大きくあります。過労死をなくす社会的な取り組みの成果とです。
【参 考】事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して 雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)【令和2年6月1日適用】より
パワーハラスメントはこう定義されています。
職場のパワーハラスメントとは、「①同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、②業務の適正な範囲を超えて、③精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」と定義をし、①から③までの要素をすべて満たすものを言います。
この定義においては、上司から部下に対するものに限られず、職務上の地位や人間関係といった「職場内での優位性」を背景にする行為が該当すること。業務上必要な指示や注意・指導が行われている場合には該当せず、「業務の適正な範囲」を超える行為が該当することを明確にしています。
■職場のパワーハラスメントの6類型
定義した職場のパワーハラスメントについて、裁判例や個別労働関係紛争処理事 案に基づき、次の6類型を典型例として整理しています。
①身体的な攻撃:暴行・傷害②精神的な攻撃:脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言 人間関係からの切り離し:隔離・仲間外し・無視④過大な要求:業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害⑤過小な要求:業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと⑥個の侵害: 私的なことに過度に立ち入ること
■相談窓口 まずは労働組合にご相談ください。
●東京労働局(雇用環境・均等室 ℡ 03-3512-1611)
なお、土日、祝日に相談したいとかメールで相談したいことが、あれば「ハラスメント悩み相談室」にご相談ください。ハラスメント悩み相談室はこちらから https://harasu-soudan.mhlw.go.jp/
●「みんなの人権110番(℡ 0570-003-110)」差別や虐待,パワーハラスメントなど,様々な人権問題についての相談を受け付ける相談電話。電話は、おかけになった場所の最寄りの法務局・地方法務局につながります。相談は、法務局職員又は人権擁護委員がお受けします。秘密厳守。