東京地評がうけた労働相談は1420件(昨年は1363件)
2021年4月から2022年3月月までの12ヶ月間に東京地評が受けた労働相談は1,420件。昨年の1,363件を上回る。

2022年6月 東京地評労働相談情報センター
【総論】21年度はハラスメント相談が急増 行政が指導力を発揮できる「法改正」が急務
相談の特徴は、2020年度ではコロナ感染拡大に対し政府が発した緊急事態宣言の発令により、多くのシフト制で働く非正規労働者の方々はじめ、コロナ禍による雇止めや賃金補償の無い休業に関する相談が多くよせられた。私たち労働組合の国への働きかけにより、雇用調整助成金やコロナ感染休業給付金の改善や活用により多くの労働者を救済してきた。
2021年度は、ハラスメントに対する相談が急増した。急増した原因の一つに、ハラスメント防止法が成立した影響も考えられますが、防止法の周知が進み、解決に動き出したとも考えられる。
ハラスメントの深刻さは、被害者を心の病・精神疾患に追い込み、仕事を離れざるを得ない状況になるケースが多く見受けられることである。
ハラスメント防止法は、今年4月からは中小企業を含めすべての企業に防止対策を法的に義務付けた。しかし、EUとは異なり加害者に対する解雇など処罰規定のない努力義務となっている。そのためハラスメント防止に向けた職場での取り組みが重要となる。
一方で、相談の多くは労働組合のない職場からの相談が圧倒的であることからも、防止措置に対する労働行政機関の指導力を発揮できる「法改正」が求められる。
2021年4月から2022年3月まで1年間のハラスメント相談の特徴をまとめた(以下)。
1.ハラスメント相談は昨年比2.14倍に急増

*相談件数中のハラスメント相談
- 2020年度 1363件 中 192件(14.1%)
- 2021年度 1420件 中 410件(28.9%)
- 前年同期比でハラスメント件数は2.14倍と急増した
2.ハラスメント相談の年代は20代が約4割で最高

- 20代の相談件数208件中83件 ➤39.7%
- 30代の相談件数281件中103件 ➤36.7%
- 40代の相談件数341件中104件 ➤30.5%
- 50代の相談件数309件中 77件 ➤24.9%
- 60代以上の相談件数124件中18件➤14.5%
3.正規雇用者からのハラスメント相談が目立つ

- 正規雇用者の相談件数777件中274件 ➤35.3%
- 非正規雇用者の相談件数458件中101件 ➤22.1%
- 派遣労働者の相談件数84件中24件 ➤28.6%
4.医療介護からの相談件数は昨年の1.5倍。製造はハラスメント相談の割合が多く40.7%でトップ

- 医療福祉からの相談件数236件中78件 ➤33.1%
- サービス業からの相談件数235件中52件➤22.1%
- 卸小売からの相談件数121件中43件 ➤35.5%
- 情報通信からの相談件数131件中36件 ➤27.5%
- 製造業からの相談件数108件中44件 ➤40.7%
以下、相談件数は少ないがハラスメント相談が多い業種
- 不動産36件中19件 ➤53.1%
- 金融保険37件中18件 ➤48.6%
5.ハラスメントがもたらす深刻な被害
- うつや適応障害との診断により休業した方からの相談が114件(ハラスメント相談のうち27.8%)
- 退職強要・勧奨を受けたとする人、退職せざるを得なかったが111件(ハラスメント相談のうち27.1%)
メール相談の事例を紹介
多くの相談者からは「ひどい言葉で叱責されると思うと不安で眠れない」、「出勤しようと思うと体が動かなくなる」、「弱い立場の者は泣き寝入りしかないのか」「もう耐えられない」「今は辞められない、助けてほしい」「アドバイスを…」など、深刻な状況が寄せられてくる。
〔ケース1〕転職2週間目に専務より3時間にわたるハラスメント 過呼吸にて救急搬送
三時間にわたり、仕事ミスの叱責から始まり職場の社員がいる中、家族、学歴、職業差別、 人格否定を続けた・・・昼休みに入った喫茶店で過呼吸により倒れ、お店から救急車にて病院 に搬送された。組合と相談するが社労士を間に退職条件で合意し解決。
T・Eさん 女性・20代 正規雇用 製造・営業事務 事業所規模20人 労組・無
新入社員が入社初日に目の当たりにした副社長によるハラスメント。20人足らずの会社に就社したAさんは,副社長が、従業員の面前で長時間にわたり社員を大声で罵倒する場面に出くわし、いつか自分も同じ事が起きるかもと思い、メモを残したそうです。そして録音の用意もして勤務していた。
2週間後、予想していた最悪の事態が訪れ、2時間あまり一つのミスを取り上げ、無能呼ばわりから始まり家族に対するいわれ無き侮辱などが行われた。昼食時間に外食先の店で過呼吸となり倒れ、救急車で搬送される事態となった。聞けば、多くの社員が同様のハラスメントで退職しているとのことだった。
〔ケース2〕中途入社された中間管理職に対する上司のハラスメント行為を訴えたが
会社による調査結果はパワハラ該当無し判断がくだされ、同部門復帰の際、各上司へ謝罪及び反省と覚悟が必要で有り、自覚出来ているか?職場復帰にあたり厳しい風当たりが・・・
N・J 男性・50代 正規雇用 勤続1.5年 不動産 事業所規模300人~ 労組・無
昨年3月に中途入社。業務上の提案に対し、部長より「係長ごときが?」と同僚社員の面前で嫌がらせが始まり、一方的に罵倒され、体調が悪くとも長時間立たせたまま等の優位的立場を利用したパワハラ行為が3週間程続き、人事部へパワハラ実態を伝えて休職をした。
職場復帰可能の診断が下されたことから、会社に復帰の意向を伝えたところ、人事部からは、訴えのあった部長によるハラスメント行為は無かった。復職するにあたり部長に謝罪する覚悟はあるのかと言われた。50歳代で、大学生の子供のいる3人家族。辞めるわけにいかず本当に困っている。どの様な対処が良いか?アドバイスをお願い致します
報道から
精神障害による労災認定を争った裁判事案では、三菱電機20代の新入社員の事件、NECの28才の社員、トヨタ自動車の40才の社員のいずれのケースも上司からのハラスメントと業務負荷を原因とする自殺と認定されています。トヨタの事件で高裁は、上司からの叱責に対し「社会通念に照らし、許容される範囲を超える精神的攻撃」を判断。三菱電機の事件では、自殺教唆容疑で教育担当の上司が書類送致をされています。
2020年に改正された厚労省の「業務による心理的負荷評価表」に「パワハラ」の項が新設され「必要以上の長時間の叱責や大声かつ威圧的な叱責。精神的攻撃」などが加えられたことが大きいと言えます。過労死をなくす社会的な取り組みの成果と言えます。
職場のパワーハラスメントの定義は明確
職場のパワーハラスメントとは、「①同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、②業務の適正な範囲を超えて、③精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」と定義をし、①から③までの要素をすべて満たすものを言います。
この定義においては、上司から部下に対するものに限られず、職務上の地位や人間関係といった「職場内での優位性」を背景にする行為が該当すること。業務上必要な指示や注意・指導が行われている場合には該当せず、「業務の適正な範囲」を超える行為が該当することを明確にしています。
職場のパワーハラスメントの6類型
厚労省はパワーハラスメントについて、裁判例や個別労働関係紛争処理事 案に基づき、次の6類型を典型例として整理しています。
①身体的な攻撃:暴行・傷害②精神的な攻撃:脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言 人間関係からの切り離し:隔離・仲間外し・無視④過大な要求:業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害⑤過小な要求:業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと⑥個の侵害: 私的なことに過度に立ち入ること
困ったらまず相談を 労働組合や行政の相談窓口まで
●東京地評
働くことで悩んでいませんか?その悩み、労働組合で解決できるかもしれません。東京地評は組合員40万人の都内2番目に大きな労働組合の連合組織です。ひとりで悩まず、東京地評にご相談ください。
●「東京都労働相談情報センター」
東京都では、賃金・退職金等の労働条件や労使関係など労働問題全般にわたり相談に応じています。相談は無料、秘密は厳守します。(メールでのご相談には応じておりませんのでご承知ください。)
●東京労働局(雇用環境・均等室 ℡ 03-3512-1611)
なお、土日、祝日に相談したいとかメールで相談したいことが、あれば「ハラスメント悩み相談室」にご相談ください。
●「みんなの人権110番(℡ 0570-003-110)」
差別や虐待、パワーハラスメントなど、様々な人権問題についての相談を受け付ける相談電話。電話は、おかけになった場所の最寄りの法務局・地方法務局につながります。相談は、法務局職員又は人権擁護委員がお受けします。秘密厳守。