「答えがほしかった」。AGCグリーンテック争議で会社を相手に、たった一人でたたかってきた女性は言います。「数えきれないほど悔しい思いもしたけれど、この会社で起きていることは当たり前のことなのか、世間で通用することなのか」と。
その「答え」が出るまでかかった年月は約10年にもわたります。
2008年に入社後、管理室で経理や給与計算の仕事をする中で、男女の賃金格差に疑問を抱くようになります。2012年、その疑問を会社に尋ねるも、真摯な回答が得られないことが続いたため、さまざまな機関に相談したものの、とりあってもらえない中で、最後にたどりついたのが「ユニオンちよだ」だったといいます。
2017年に加入し、団交を重ねながら、ついに2020年8月提訴に踏み切ります。
会社はその間、一般職は転勤がないのに異動をほのめかす、社内ルールの変更は男性社員のみに通知するなど、正社員扱いせず、女性をバカにするような態度を取り続けます。また提訴後に事務職の総合職女性を採用し、女性の仕事を取り上げ、23年10月に一般職ではひとりいた男性を総合職にしました。
また、女性は一般職といいながら、管理室長が一時不在のときは引き継ぎもなく、その業務をたった一人で担いでいた時期もあります。会社は彼女の仕事への誠実さや責任感を利用しながらも報いず、女性の訴えに向き合うことなく、あまつさえ、さまざまな嫌がらせを重ねたのです。
支えになった組合 気持ち折れそうになった時も
「やめたい、もういやです、みたいなときもありましたよ」と話すのはユニオンちよだの執行委員の香取義和さん。「ひどいときは眠れないし、(自分を守るために)常に気が張っていた時期もありました。ずっと強い気持ちでいられるわけではないから、弱音やグチを受け止めてもらえたことも大きかった」と女性はいいます。組合は団交といった労働組合の役割だけではなく、折れそうでくじけそうな女性の心を支えたのです。「組合があってありがたかったです」。
奮闘する彼女を応援しようと、当該組合、地域など支援の輪が大きくなり、大阪や富山などから、かつて、男女平等の実現へ職場で差別をたたかってきた原告の女性たちが裁判の傍聴にかけつけたのです。「そういった運動の広がりをマスコミが注目し、裁判所に間接差別を認める勝利判決を書かせ、会社側の態度を変えさせたのではないか」と香取さん。
そして、そのたたかいは、強固な岩盤をも崩そうとしています。夫婦別姓問題に元最高裁判事が今回の女性がかちとった判決を引き合いに「旧姓時代の仕事上の実績が認識されないなど、数多くの不利益を女性側が一方的に受けざる得ないことが間接差別に該当しうる」との考えを経団連の講演で示したのです。「自分の判決がいい方向に使われているのであればうれしい」。
今回、残念ながら、一般職の男性との賃金差別は認められませんでしたが、「制度が見直されるまで、今後も団交で会社側とのたたかいを続ける」と女性は語ります。「言いにくいことも、言わないと変わらない、勇気もいるし孤立が怖かったけど、誰かが声を上げないと。私はあきらめません」。
日本初「間接差別を認めた」判決
ガラス大手AGC子会社のAGCグリーンテックで働く女性社員が「全員が男性の総合職だけ社宅制度を認めることなどは男女差別」と訴えた裁判で、5月13日東京地裁は「男女雇用機会均等法の間接差別にあたる」と認め、会社側に323万円の損害賠償と50万円の慰謝料の支払いを命じました。判決報告集会には当該組合ユニオンちよだや千代田区春闘共闘など多くの支援者がかけつけました。
同月28日に会社側が控訴を断念、判決が確定。間接差別を認めた日本初の判決となりました。