HOME活動調査・研究「くらしと健康アンケート」から見る「生活困窮世帯に求められる支援」
調査・研究
「くらしと健康アンケート」から見る「生活困窮世帯に求められる支援」
2021.07.20

2021年7月20日

 東京地評コロナ対策本部 伊藤暁・鎌田建

賃金の底上げと多角度からの生活支援策が急務

 2020年から続く新型コロナウイルス感染症は、貧困と格差を拡大し、特に非正規労働者や女性、ひとり親家庭、高学費のもとに置かれている学生、在留外国人等を困窮状態に追い込んでいる。こうした中、全国各地でフードバンク、食料や生活支援活動が取り組まれており、東京都豊島区南大塚においても、東京地方労働組合評議会(東京地評)、東京民主医療機関連合会(東京民医連)、東京社会保障推進協議会(東京社保協)が事務局団体となり、他の団体や個人の協力を得て「コロナにまけない!食料×生活支援プロジェクト」を、2020年12 月と2021年3 月に実施した。今年3 月の取り組みにおいて、事前申し込み者および申し込み無しでの当日直接来場者に対し「くらしと健康アンケート」を行った。本稿では、このアンケート結果を手掛かりに、特に生活困窮世帯に対する支援について考える。

1.「コロナにまけない!食料×生活支援プロジェクト」開催概要

(1)第1回支援プロジェクト(2020 年12 月23 日(午前10 時~午後3 時))

豊島区・文京区の在住、在勤者を中心に254人が来場し、23区東部や多摩地域、埼玉県南部など遠隔地からの来場者もあった。来場者の7割以上が女性で、学生、ひとり親世帯がそれぞれ来場者の1割を占めた。平日昼間の開催にもかかわらず、就業者が34%を占め、コロナ禍がひとり親世帯、学生をはじめ、広く勤労者に影響を及ぼしていることが伺える。TBS「報道特集」(12/26、http://www.tbs.co.jp/houtoku/onair/20201226_1_1.html)やNHK「ニュース9」(12/25)などでもその様子が紹介された。以下は、報道で取り上げられた来場者インタビュー内容である。

・大学3 年生(20 代)の女性「生活費は大変。奨学金を借りながら学費を払いつつ、生活を養っているので、ぎりぎりです。」

・大学4 年生(23 歳)の女性「自分でなんとか頑張りなさい。頑張りが足りないという自己責任論みたいな風潮も感じる。自分で我慢しなきゃと思わせる、そういう空気みたいなものが大きい。」

・5 歳の息子を1 人で育てるシングルマザー「お金が全くない。子どもにクリスマスのお祝いをしてあげられないので助かった。行政の支援よりはNPO の食料支援とかの方が、私たちのためになっている。行政は全く助けてくれない。」

配布食料のすべては寄付、カンパ金で用意した。白米460キロやみかん250キロ、アルファ米1000食をはじめ、生活用品などのすべてを渡すことができた。女性のみが入室できる女性・子ども用品ブースでは「シングルマザーどうし、頑張ろうね」と励まし合っている姿や、涙しながらコロナ禍の一年を振り返っている方々が何人もいたことはコロナ禍の厳しい年末を象徴している。

(2)第2回支援プロジェクト(2021 年3 月30 日(午後3 時~午後7 時))

 234人が来場し、9割が女性、全体の6割が20歳未満の子どもを持つひとり親世帯であった。また、全体の7割が20~49歳の働き盛り世帯であり、5人と少数であったが勤務中の保護者に代わり、受け取りにした中高生がいたことは前回にない特徴である。

のちに詳述するが、全体の7割がこの1年間で月収が減ったと回答。月1万~5万円の減収が最も多く、全体の2割に上っている。この1年間で家賃やクレジットカードなど生活費の支払いに困った経験のある人は6割超で、16%が年6回以上経験と回答。多角度からの生活困窮者への支援が待ったなしであることが浮き彫りになった。

 白米などの食料品の他に、入学・進学シーズン目前であることからノートや色鉛筆など文房具等を準備した。前回同様、女性ブースも設け、生理用品の無償配布や健康や生活や仕事、住宅、法律に関する相談を受けた。報道ステーション(テレビ朝日)において、その様子が報じられた。

2.「くらしと健康アンケート」結果にみるコロナ禍における勤労者の生活困窮の実態

第2回支援プロジェクト(2021年3月)において、事前申し込み者(201人)および申し込み無し来場者(83人)、全284人に対し「くらしと健康アンケート」を行った。これをもとに、勤労者がコロナ禍によりどのような生活困窮状況に陥っているのか、雇用形態、現在の月収水準、この1年間における家計の支払い困難経験の有無に焦点をあて、その特徴点や問題を明らかにする。

(1)生活困窮は不安定就労者などに集中的に表れるとともに、正規雇用労働者にも迫りはじめている

回答者自身の働き方(雇用関係等)においては、非正規雇用(34%)が最も多く、ダブルワーク(7%)、フリーランス(6%)を併せると47%がいわゆる不安定就労にあると思われる。コロナ禍による生活困窮は、こうした「弱い環」に集中して表れていることが伺える。

また現在失業中が14.9%にのぼっているとともに、安定的就労先と思われてきた正規雇用労働者が19%を占めており、コロナ禍による生活困窮は失業者、不安定就労者ばかりでなく、正規雇用労働者にも迫っていることが伺え、国民生活の底が抜けかねない深刻な様相を示している。

(2)「最低生計費 月収24万6千円」以下は、非正規雇用の91.5%

東京地評・東京春闘は2020年12月、「東京都最低生計費試算調査結果について-東京で若者がふつうに暮らすためには少なくとも時給1,500円が必要!」を発表した

https://www.chihyo.jp/wp-content/uploads/2021/02/191219_siryou.pdf)。これは若年単身者世帯をモデルとした調査結果であるが、生活費の節約を重視した「東京都北区モデル」では男性=月額249,624円、女性=246,362円が必要であることが判った。

これを「くらしと健康」アンケート回答者の「現在の月収」階層と比較すると、最低生計費(24万6千円)を確実に上回っていると考えられる30万円以上階層はわずか6%しかおらず、圧倒的多数が最低生計費を下回っていることが伺える。なお、「現在、1カ所で非正規雇用で働いている」と回答した者を「現在の月収」階層でクロス集計すると、「10万円未満」30.5%、「10万~20万円未満」40%、「20~30万円未満」21%と、最低生計費以下と思われる階層が91.5%に上ることが判った。労働者の賃金がいかに低く抑えられ、ゆとりのない生活を強いられているかを表わしており、この低賃金状態・ゆとりのなさがコロナ禍による生活困窮を加速させ、深刻なものにしていると思われる。最低賃金・最低時給の大幅引上げが一刻も急がれる。

(3)家計の支払いに困ったことが「ある」69% 非正規雇用、ひとり親世帯に同様の傾向

「くらしと健康アンケート」において、この1年間で収入が「減った」答えた人は196人(69%)にのぼり、「変わらない」(31%)の2.2倍にのぼる。なお、「増えた」と回答した1人については、その変化額を問う質問において「0」と回答していることから回答間違いと考えられる。

収入の減少が生活、とりわけ家計に支払いにどのような影響を及ぼしているかを考察する。

アンケートでは、この1年間で家賃やクレジットカードなど生活費の支払いに困った経験のあるかどうかをその頻度とともに質問している。「(収入が)減った」と回答した196人のうち、「家計の支払いに困ったことがある」と答えたのは135人(69%)にのぼり、その頻度については、「2~3回ある」が50人(37%)で最多、次いで「6回以上ある」40人(20.4%)となった。これは2か月~数か月に一度に支払いに困っていることを意味しており、生活破綻が目の前に迫っていることが伺える。

次に、家計支払い困難経験を雇用形態、家族構成に着目して分析してみる。

「現在、1カ所で非正規雇用で働いている」回答者(95人、全回答者数の33.4%)では、全体の62%が「家計の支払いに困ったことがある」と回答し、その頻度は「2~3回ある」が31%で最多、次いで「6回以上ある」12%となった。

また、20歳未満の子どもをもつひとり親世帯(139人、全回答者数の48.9%)では、全体の63%が「家計の支払いに困ったことがある」と回答し、その頻度は「2~3回ある」が29%で最多、次いで「6回以上ある」15%となった。

非正規雇用労働者、20歳未満の子どもありひとり親世帯のいずれの階層も、「家計支払い困難経験」の傾向が相似しており、これらの階層に生活破綻が目の前に迫っていることが伺える。生活支援のテコ入れは急務である。

3.小括 賃金の底上げと多角度からの生活支援策が急務である

以上にみたとおり、コロナ禍による生活困窮は、非正規雇用をはじめとする不安定就労者など「弱い環」に集中して表れていることがわかる。安定的就労先と思われてきた正規雇用労働者にも生活困窮が迫っていることも伺え、これを放置すれば国民生活の底が抜けかねない深刻な様相にある。

回答者の圧倒的多数が最低生計費・月収24万6千円を下回っており、特に非正規雇用労働者においては、最低生計費以下階層が91.5%に上ることが判った。これまで労働者の賃金が低く抑えられ、ゆとりのない生活を強いられてきたことが、コロナ禍による生活困窮を加速させ、深刻なものにしていると思われる。これを打開するために、最低賃金・最低時給の大幅引上げが一刻も急がれる。

さらに、家計に支払いにどのような影響を及ぼしているかを考察した結果、「(収入が)減った」と回答した196人のうち、「家計の支払いに困ったことがある」と答えたのはおよそ7割にのぼり、2か月~数か月に一度という多頻度で支払いに困っている様相が明らかになった。そしてこの傾向は、非正規雇用労働者や20歳未満の子どもありひとり親世帯にも相似して表れており、生活破綻が目の前に迫っていることが伺える。事態の打開は急務である。

国民生活の底が抜けかけている中、その打開策として、最低賃金・最低時給を引き上げ、健康で文化的な生活を送れる賃金水準を早急に確立すること、さらに生活困窮世帯に対し、差し迫った家計消費支出に必要な生活費相当を充当することが急がれる。前者は最低賃金の大幅引き上げ、また後者は政府および東京都における支援策の拡充で実現できることであり、いずれも早期に実施することは可能である。私たちも、行政、立法・議会に携わる関係者と連携して、これらの実現に尽力していくものである。

関連タグ:なし