現在厚生労働省で検討が進められている「労働契約法制」には、企業の横暴勝手を野放しにする内容が含まれています。東京地評労働政策局長の永瀬さんにこの法律の問題点と取り組みの方向性についてまとめてもらいました。

長瀬登労働政策局長
 去る4月13日、厚生労働省の「今後の労働契約法制のあり方に関する研究会」は「中間とりまとめ」を発表し、7月下旬には「最終報告」の第一次案をまとめ、10月末には「最終とりまとめ」を行うとしています。「中間とりまとめ」(以下「とりまとめ」という)の危険な内容を明らかにし、進められている労働契約法制に反対する運動を強めることが求められています。

誰のための労働契約法制か

 「とりまとめ」は、労働契約をめぐる状況の変化として、労働条件の変更が多くなっていること、その変更は労働条件が引き下げられる場合が多いために紛争が増えていると、「企業が紛争なしに労働条件の変更が迅速に行われることが必要となる」とその立場を明らかにしており、まさに企業の必要性から労働契約法制の確立をめざしていることは明らかです。その考えの基本は、「事前規制・調整型から事後監視・救済型社会への転換」を基調とする労働法制の規制緩和に他ならないことを告白しています。「自律的な働き方」をキーワードに、労働者が企業の支配から離れて「自律的に働ける」がごとくの記述に満ちたもので、労働者に団結権、団体交渉権、争議権を認めてきた労働法の歴史を無視し、労働三権に基づく対等な交渉の必要性を小さく描こうとしています。
「労使委員会制度の活用」「就業規則の変更による労働条件の不利益変更」「雇用継続型契約変更制度」「解雇の金銭解決制度」「有期労働契約」「労働時間法制の見直し」と「とりまとめ」のほとんどの項目が労働者の権利を守る上で重大な問題を含んだものとなっています。

建交労中部支部 松田隆浩さん6/24行動の厚生省前にて
 職場の状況は、長時間・サービス残業、期間雇用、派遣が蔓延しています。また、大型トラックでの輸送や水道検針の仕事を持つ人を業者扱いにして健康保険などをはずし、事故で障害が残っても企業の責任は問われないなど、安心して働ける状況ではありません。
 企業が、労働者を勝ち組と負け組に分けて差別化をはかるのは、より利益を上げたいからでしょうが、労働者の間の格差は働く者同士の誇りを傷つけ、働く意欲さえ失うことになります。
 いま職場討議を強め企業責任を明確にしていくたたかいが必要です。

対等な立場って本当?

 では、「労使委員会制度の活用」について見てみましょう。
 労使委員会は常設的に設置するもので「労使当事者が実質的に対等な立場で自主的な決定を行うことができるようにする」とし、「使用者が労働条件の決定・変更について協議を行い」、「労使委員会において合意が得られている場合には労働契約法制において一定の効果を与える」としています。実質的に対等な立場を担保するものがなんら明らかにされていませんし、みちのく銀行事件のような不利益変更に対する労働者の訴訟も労使委員会での合意を持って変更の合理性を与えることで、訴訟に訴えることもできなくなります。
 さらに、「事前協議や苦情処理の対応を、配置転換、出向、解雇等の権利濫用の判断基準のひとつとして考えられる」とその拡張さえ考えており、配転、解雇さえも労使委員会で権利濫用がなかったとすれば労働者の権利回復は難しくなってしまいます。つまり労使委員会制度は、会社にとっては労働条件変更ばかりか、解雇までも合法性を得る制度となり、法廷判断の予測さえも与えることになることは明らかです。
 就業規則の不利益変更についても、過半数組合の合意や労使委員会の五分の四以上の賛成がある場合には変更の合理性を認める方向での議論を深めるとしており、労使委員会制度の活用と同じように少数組合や労働者の不利益変更に対する裁判を受ける権利さえ奪うことになってしまいます。

解雇の規制こそ求められる

 雇用継続型契約変更制度は、「変更解約告知」を指しています。「とりまとめ」は、使用者による労働条件の変更提案に対し、労働者がこれに同意しない場合には解雇することがあり、「そこで、労働者が雇用を維持した上で、労働契約の変更の効力を争うことができるようにすることが必要」として「雇用継続型契約変更制度」を作ろうとしています。問題は、企業の一方的な契約変更権を認めることが大前提になっていることです。その上で解雇と言う脅しで変更を強要することになり、これに抗して裁判を起こす労働者は極めて少ないことは十分予測できます。しかも、この制度は裁判を起こさなければ変更が有効となり、一方的な契約の変更になることはいっそう鮮明です。
 一方的な不利益変更に応じない労働者を解雇することはできないと明確にすることが、「解雇と言う社会的コストを避ける」妥当な解決策です。

全印総連凸版印刷労働組合 小林健一さん
不当解雇でも金銭で解決、会社が労働条件を勝手に変更する?とんでもない話だ。
 私たちは一九人で提訴して、ずっと賃金昇格差別を是正しろと会社とたたかって和解交渉にこぎつけたけど、それができなくなったら、後輩は大変になる。がんばらないとね。

働いてこそ人間の尊厳がある

 「とりまとめ」は使用者側からの申出による金銭解決について「解雇は無効であっても現実には労働者が原職復帰できる状況にはないケースもかなりある」として理解を示し、「解雇を誘発する」等の批判に対しては、「いかなる解雇についてもこの申し立てを可能にするものではなく」「職場復帰が困難と認められる特別な事情がある場合に限る」などと規制が図られると主張しています。しかし、「原職復帰できる状況にないケースもかなりある」と「とりまとめ」も認めている認識を考えれば、使用者による「業務がすでに別会社に移っているなど」の職場復帰が困難な「特別な事情」の拡大解釈が進むであろうことは十分推測されます。
 さらに、解決金の額を含めて、ここでも労使合意を要件とすることで懸念を払拭できるとしていますが、労使委員会や過半数組合での合意が歯止めにならないことは労使委員会の活用のところでも明らかにしているように、改めて労使委員会の果たす役割の危険性が広がることも見逃すことができないものです。
 「金銭解決」制度は、〇三年の労基法改正のときも大きな論議が起こり、「金で首切りを合法化するものだ」等の厳しい批判を浴びて法案が見送られた経過からも「とりまとめ」の異常さが浮かび上がっています。労働契約において求められているのは「解雇無効の場合には就労」のルールの確立であり、それこそが憲法の勤労権に沿った方向であることはあまりにも明白です。

雇い止めを容易にする有期労働契約制

 日本経団連の戦略に沿って、有期雇用労働者は雇用労働者の三人に一人と増大しています。EUでは非正規労働者を雇用と失業を繰り返す不安定な労働者として「半失業者」として対応を強め、失業対策と共に均等待遇の取り組みが進んでいます。
 とりまとめは「就業形態や就業意識の多様化が進んでいる」との状況認識を示していますが、企業活動によって「働かせ方の多様化」が広がっているのです。しかも、低賃金、無権利で集団的な労使関係の影響から程遠い状況にあります。雇い止めへの対抗手段を持っておらず、使用者の勝手がまかり通り、雇い止めに「泣き寝入り」する労働者が後を絶ちません。労働者保護の立場に立てば、こうした不安定な雇用を安定したものにするために、有期労働の制限・改善こそが強く求められています。しかし、「とりまとめ」は、この間確立されてきた「雇い止め制限」法理を使用者の予測可能性が低いと使用者の言い分を認める立場に立っているのです。

青年が夢と希望を持って働ける職場を作ろう

 また、「試行雇用契約」を新設し、これまでの法理が「試用的な雇用については期間の定めのない契約における試用期間である」としてきたことが問題になっていると、あらかじめ決められている期限が切れることで雇用の打ち切りを可能とする方向で検討しようとしています。有期雇用における試行雇用は経営者にとって使い勝手の良い制度と言えます。

自律の名による賃金不払い、長時間労働を容認

 「とりまとめ」は「労働者の働き方の多様化に応じた労働時間法制のあり方についても検討する」として、ホワイトカラーエグゼンプション制度を参考に裁量労働制の対象業務の拡大を示唆しています。言うまでもなくホワイトカラーエグゼンプションは労働時間規制の適用除外です。
今年の日本経団連の経労委報告では、労働基準行政による不払い残業の摘発などに敵意をむき出しにしています。長時間・不払い労働に反省もなく労使合意をテコとして監督行政を敵視していることからも労働時間法制見直しの危険性は言うまでもありません。

闘う権利も奪われる

 「とりまとめ」は「労働者の創造的・専門的能力を発揮できる自律的な働き方に対応した労働時間法制の見直しを行う」必要性を強調し、「労働者の健康に配慮する措置を講じる」としています。が、現実には過労自殺が増大し、経営者の支配から自律した働き方など伺い知ることが出来ない中で、結果として、賃金不払い・長時間労働を容認する道を開くことになるのは目に見えています。

はじまった先取りの攻撃法案化する前に葬ろう

 初めて「変更解約告知書」を見ました。
 医療法人社団寿光会は平成17年5月6日付で東京医労連寿光会分会の組合員に「変更解約告知書」を送付してきました。その書き出しは、「再雇用申入付き解雇通知」とあり、「貴殿を、平成17年6月20日をもって解雇し、翌日の平成17年6月21日から、別紙『期間の定めのある時給者雇用契約書』記載の労働条件で再雇用することを申し入れます。」と記されていました。
 寿光会は「変更解約告知書」に同意しなかった24人を解雇する極めて許しがたい攻撃をおこなってきています。寿光会分会は東京地裁八王子支部に解雇予告効力停止仮処分の訴えを起こしてたたかいに立ち上がっています。
 労働契約法制は、10月末の「最終報告」を受けて労働審議会に諮問され、答申を待って法案化される手続きとなります。06春闘の重要課題であることは言うまでもありませんが、学習を強めて厚生労働省への運動を強化し、法案化させず、労働契約法制を葬り去りましょう。